Chapter 01
第一章:白銀の足跡
時計の針が午前2時を指した頃、窓の外はすっかり静まり返っていた。カーテンを少し開けると、街灯のあかりに照らされた雪が、ひとつ、またひとつと落ちてくる。それはまるで誰の耳にも届かない小さなささやきのようだった。
温かい紅茶のカップを両手で包み込みながら、私はただぼんやりと窓の外の闇を見つめていた。昼間の喧騒が嘘だったかのように、世界からはすべての音が削ぎ落とされている。積もりゆく雪は、過去の記憶も街の痕跡も、すべてを等しくやさしく覆い隠していく。
◇ ◇ ◇
重いコートを羽織り、そっとドアを開ける。冷気が一瞬で肌を刺したが、不思議と不快ではなかった。むしろ、濁っていた頭の中がすみずみまで澄み渡っていくような感覚だった。
誰も踏み入れていない新雪の上に、一歩を踏み出す。キュッ、という小さな音が、静寂な夜の空気に小さく響いた。振り返ると、そこにはまっさらな白の世界に、たったひとつだけの自分の足跡が残されていた。