時計の針がちょうど十二時を指したとき、街角の小さな路地にさしかかっていた。普段なら誰も通りかからないはずの袋小路に、ほのかな温かい光が漏れている。
吸い寄せられるように足を進めると、そこには古びた木製のドアがあった。真鍮のプレートには、繊細な文字で『星空図書室』と刻まれている。
「こんなところに、本屋なんてあっただろうか……」
そっとドアを押すと、小さなベルが清らかな音を鳴らした。中に足を踏み入れた瞬間、古い紙と珈琲の香りが心地よく鼻腔をくすぐる。天井まで届く大きな本棚には、見たこともない装丁の本がずらりと並んでいた。
◆ ◆ ◆
奥のカウンターから現れたのは、淡い紺色のエプロンをつけた小柄な少女だった。彼女は静かに微笑むと、ゆっくりと頭を下げた。
「いらっしゃいませ。今夜のお客様は、あなた様ひとりのようです」
彼女の声は、夜の静寂に溶け込むほど透き通っていた。僕は戸惑いながらも、棚から一冊の青い背表紙の本を手に取った。
表紙を開くと、文字のかわりに満天の星々がゆっくりと動きはじめた――。